本記事では、知的障がい、発達障がい、精神障がいを抱えている人を雇用する際に
必要な配慮や障がい特性について解説します。
知的障がいについての定義は明確にはありませんが、
厚生労働省のホームページで確認出来る定義では、
18歳までに知的機能の障がいが現れ、
日常生活に支障をきたし、特別な援助が必要な状態とされています。
障がい者手帳として、自治体から療育手帳が交付されます。
療育手帳にはA(重度)とB(重度以外)の等級があり、
一部自治体ではB1(中度)、B2(軽度)などに区分されることもあります。
また、地域障害者職業センターで重度知的障がい者の判定を受けると、
雇用対策上の重度に該当します。
知的な発達に遅れがある人は、意思疎通や日常的な事柄に支援が必要な場合があります。
しかし、すべての能力が遅れているわけではなく、個人差があります。
そのため、知能指数だけで職務能力を判断することは避けるべきです。
<具体的な言葉で説明する>
あいまいな指示は避け、具体的に説明することが大切です。
例1「適当なところで作業の報告をしてください」→「〇時に、作業の報告をしてください」
例2「きちんと商品を並べてください」→「この見本のように、向きをそろえて商品を並べてください」
<作業工程を細分化する>
複数工程の業務がうまくできない場合、
職務内容を細分化することで業務をスムーズに進めることができます。
例えば業務を1つの工程だけを任せることで、効率的に業務を遂行できる場合もあります。
<採用時・採用後>
・本人が利用している支援機関がある場合は、本人との意思疎通にかかる支援や、
採用後に必要な配慮事項など本人の気持ちを確認しながら相談することができます。
・複数の人から仕事の指示や説明を受けると混乱してしまうことがあります。
そのため、担当者(キーパーソン)を決めて、指示系統を一本化することで、
安心して仕事に取り組むことができます。
・一度に多くの業務を任せるのではなく、1つずつ正確にできることを確認しながら、
任せる業務を増やしていくことで作業の幅が広がります。
・図や写真等を活用したマニュアル、作業手順書を作成するのもお勧めです。
発達障害者支援法では、発達障がいは自閉症、アスペルガー症候群、学習障害
注意欠陥多動性障害など、
通常低年齢で発現する脳機能の障害とされています。
発達期に中枢神経系が障害されることで
認知・言語・学習・運動・社会性のスキルの獲得に困難が生じます。
発達障がいの障害者手帳はありませんが、精神障害者保健福祉手帳を持っている場合は
「障害者の雇用の促進等に関する法律」の適用範囲となり、
療育手帳を取得した場合は知的障がい者として扱われます。
<自閉スペクトラム症>
他者とのコミュニケーションに苦手意識がある人は、
他者の反応や関心に対する理解が不足している可能性があります。
また、言葉や表情、ジェスチャーなどのコミュニケーション手段を
適切に使用できないことが、対人関係の構築を難しくしているようです。
職場では、上司や同僚との接し方に不安を感じることや、質問のタイミングを逃すこと、
暗黙のルールに戸惑うことなどが挙げられます。
これらの課題に対処するためには、コミュニケーションスキルの向上や、
職場での適切な振る舞いについての理解を深めることが重要です。
また、活動や興味の範囲が制限されることがあります。
立場を変えることや場を理解することが難しいこともあり、変化を恐れることもあります。
職場では、複数のことを担当すると優先順位が分からなくなったり、
予定が変更になると不安になることがあります。
<学習障害>
学習障害は、診断基準が変わり、「限局性学習症/限局性学習障害」という名称に変更されました。
この障がいは、全般的な知的発達の遅れがなく、視覚・聴覚、運動能力にも大きな困難はみられません。
一方、本人の努力や環境が十分であっても、
読み書きや計算能力などに限定的な障害があり、アンバランスさがみられる特徴があります。
<注意欠陥・多動性障害>
注意散漫、多動性、衝動性が特徴であることが挙げられます。
これらの特性により、職場でミスが多発したり、集中力が続かない、
仕事を順序通りに進められないといった問題が生じる可能性があります。
さらに、これらの障がいが重複する場合もあり、
個々の状況や障がいの現れ方によって、個別の対応が必要とされます。
<職場のルールや文化の視覚化・明確化>
職場で守るべきルールは、文章やメモによって具体的に示すことが重要です。
上司や同僚に対する接し方については、役割を明示し、モデルを示すことが効果的です。
<本人のスキルや特性に応じた環境整備>
できる仕事は何か、苦手な仕事は何か等を把握した上で、
本人の適性に応じた配置をすることが大切です。
感覚の偏りがある人もおり、過敏がある場合、刺激の少ない環境を設ける、
鈍麻(どんま:疲れに気づかない等)があれば必要に応じて気づきを促すなど、
安定して仕事ができるよう配慮する必要があります。
<段取りや先の見通しの明示>
変化に対する不安を軽減するためには、
作業時間や工程を予め確定し、従業員に伝えることが重要です。
また、残業や納期の変更が必要な場合は早めに指示するようにしましょう。
さらに、従業員にメモを取って復唱してもらうことで、
情報の確認や理解を促すことができます。
精神障がいは、統合失調症、気分障害、精神作用物質使用による疾患などを含みます。
障害者雇用促進法では、精神障がい者の範囲を定義しており、
精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人や、特定の疾患を持つ人が該当します。
精神障害者保健福祉手帳は1級から3級までの等級があり、
障害者雇用率の算定には手帳所持者のみが含まれます。
<統合失調症>
統合失調症は患者数が多く、急性期から回復後にも各種の障がいが後遺症として残り、
社会で自立した生活を送るのが困難になることもあります。
統合失調症から回復した人には、細かな指先の動作が苦手、複雑なことが苦手、
臨機応変に判断することが苦手、新しいことに対して不安が強いという特徴がよく見られます。
<双極性障害・うつ病>
うつ病は、身体と精神の両方に症状が現れる病気です。
身体症状には睡眠障害や疲労感があり、精神症状には抑うつ状態や注意力散漫があります。
一方、「躁状態」は気分の高揚が特徴で、過度の社交性や行動が特異な特徴があります。
そう状態とうつ状態が交互に繰り返されるのが双極性障害の特徴です。
<適応障害>
適応障害は、抑うつ気分や不安、気力や思考力、集中力の低下などの症状が見られる病気です。
この病気はストレスや入学、結婚、仕事などのライフイベントが原因で発症することが多く、
ストレスがなくなれば症状も改善される特徴があります。
しかし、適応障害と診断された抑うつ症状が、
実は他の病気の初期症状である場合もあるため、注意が必要です。
<不安障がいなど>
過剰な不安によるパニックや無意味な行動が見られる症状があります。
不安や恐怖の対象によって社交不安障害、パニック障害、全般性不安障害に分類されます。
社交不安障害は他人からの否定的な評価に対して過剰な不安を感じる特徴があり、
パニック障害はパニック発作が主な症状であり、身体症状を伴います。
全般性不安障害はさまざまな出来事や活動について
過剰な不安が少なくとも6カ月間持続するという特徴があります。
・心身が疲れやすいので、本人と相談の上で短時間勤務からはじめ、
体力の回復状況をみながら徐々に延長するとよいでしょう。
・職場で日常的に関わることができ、信頼関係を築くことのできる援助担当者を
決めておくことも大切です。
・判断・責任などの精神的プレッシャーに弱い場合には、安全なストレスレベルから始めます。
工夫・応用が苦手なことがあるので、作業の流れや手順を決めるとよいでしょう。
・通院・服薬の遵守に配慮することが必要で、
必要に応じて医療機関や支援機関と連携してサポートすることも大切です。
聞いたことのある障害であっても、個々で現れる症状も異なるため、
どのような症状があって、どう対処したら良いのか知らない方も多いのではないでしょうか。
初めて障がい者雇用を進める際にはぜひこの記事を参考にしていただけますと幸いです。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html#1