今回は障がい者を初めて採用する企業に向けて、
採用の仕方や採用後の支援などについてQ&A方式で解説します。
また、利用できる支援制度などについてもご紹介しますので、
ぜひご活用いただけますと幸いです。
A. 一般的な方法(面接・筆記試験など)での選考で問題ありませんが、障がい者に対する配慮も必要です。
採用面接では、能力や意欲だけでなく、障がい状況や職場での配慮事項も確認することが重要です。
障がい者が安心して選考に臨めるよう配慮する視点を大切にしましょう。
<視覚障がい者>
・試験場所まで公共交通機関を利用する場合は、経路やバリアフリー状況を確認する。
・筆記試験の際に、情報機器(音声ソフト、点訳、点字など)を活用する。
・弱視者に対しては拡大読書器の使用を認める。試験用紙を拡大コピーする。
・読み取りに時間を要するので試験時間を長く設定する。
<聴覚障がい者>
・面接では口話、手話、筆談のどの方法で面接するかあらかじめ確認しておく。
・説明が分かりやすい場所に席を設ける。
・説明事項を板書する。
・筆談対応のスタッフを配置する。
・手話通訳を配置する。
<肢体不自由者>
・試験場所まで公共交通機関を利用する場合は、経路やバリアフリー状況を確認する。
・自家用車を使用する場合は駐車スペースを確保する。
・車いす使用者の場合は、試験場所やトイレのバリアフリー状況を確認する。
・上肢障がいや言語(発語)に障がいがある場合は、面接・試験時間を長くするなど配慮する。
<知的障がい者>
・職業能力だけでなく、生活習慣が整っているか、協調性があるかなどの把握に努める。
・本人との面接だけでは職務遂行能力、就職に対する態度や考えなどが把握しにくい面もあるため、
本人の同意を得たうえで、面接同席にて家族、支援機関の担当者、
学校の担任教諭などに情報を補足してもらうことも有効。
<精神障がい者・発達障がい者>
・緊張しやすい人に対しては緊張を解きほぐすような雰囲気を作る。
・職務遂行能力だけでなく、生活習慣が整っているか、協調性があるかなどの把握に努める。
・通院や服薬が必要な人はきちんとできているか、
調子が悪くなった時に適切に主治医などに相談できるか、
医療機関のサポートが受けられるかなども把握した方がよい。
・本人への面接に加えて、本人を支援している支援機関の担当者からも
障がい特性や配慮事項などを把握することも有効。
採用面接にあたっては、企業の担当者から
「障がいのことについて質問してもよいのだろうか」などの声が聞かれます。
障がいに関する情報は個人情報の中でも特に取扱いに注意を要するセンシティブ情報になりますので、
必要以上の質問は控えるのがよいでしょう。
しかし、雇用後の支援や環境整備のためには、
本人の同意を得た上で必要な情報を収集・確認することが重要です。
障がいの種類や程度で採否を決めるべきではないことに留意して、面接を行いましょう。
A. 基本的には一般社員の採否の判断ポイントと同じで、
応募者の持っている力を見出しながら、採否を検討することが望まれます。
①仕事への意欲
②職務経歴、スキル、職務遂行能力などから判断する職務とのマッチング
③周囲との協調性
その他に採否を判断するために確認しておくとよいことは、以下のとおりです。
<障がいの自己理解>
・職場で「自分ができること」「できないこと」
「サポートを受ければできること」などが分かっており、それを説明できる。
・困った時に自分から周囲にサポートを依頼できる
<職業準備性>
職業準備性とは特定の職業に就くための技術や資格の習得状況ではなく、
どの職業にも共通して必要とされる職業人としての基礎的な要件のことをいいます。
職業生活において、職業準備性は重要な要素で、健康管理や日常生活管理が重要です。
高い能力を持っていても、これらの管理ができないと離職することがあります。
採否判断には職業準備性が関わりますが、支援や意欲の向上により課題が軽減される場合もあります。
そのため、総合的な判断が求められます。
A. 採用した障がい者の希望や障がい特性と配慮事項などを踏まえ、
本人に合った労働条件等を整理し、労働条件通知書等を交付します。
また、採用する障がい者に合わせた社内支援の担当者を決めます。
①障がい特性と配慮事項の社内共有
面接や採用時には、本人や家族、支援機関から収集した情報を社内で共有することが重要です。
しかし、共有する内容や範囲については、本人の同意を得る必要があります。
②労働条件の整理(労働条件通知書の提示)
個々の希望や特性に応じて労働条件を調整する必要があります。時差出勤や通院に配慮した休日、適切な賃金や職務内容など、求人票に記載された条件を変更することが必要な場合もありますので、労働条件通知書を作成して交付します。
③障がい者職業生活相談員の配置
障がい者の雇用の促進等に関する法律によると、
障がい者を5人以上雇用している事業所は障がい者職業生活相談員を選任する必要があります。
相談員は障がい者の職業生活全般の相談や指導を行います。
④企業在籍型職場適応援助者(企業在籍型ジョブコーチ)の配置
企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)は、
同じ企業に雇用されている障がいのある労働者の職場適応に向けた支援を行う支援者です。
支援者の強みは、企業内で支援が行われることから、
課題の早期把握とタイムリーで切れ目のない支援が可能であることや、
障がい者社員の受入準備から職場定着に至るまでの一貫した支援が可能であることです。
⑤障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金を活用した介助者等の配置
<障害者介助等助成金>
職場介助者の配置または委嘱助成金(重度視覚障がい者、重度四肢機能障がい者などが対象)、
手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱助成金(6級以上の聴覚障がい者が対象)などがあります。
<職場適応援助者助成金>
企業在籍型職場適応援助者による支援を実施した事業主に対しては、
助成金(職場適応援助者助成金)が支給されます。
<重度障害者等通勤対策助成金>
通勤用バス運転従事者の委嘱助成金や
通勤援助者の委嘱助成金(重度身体障害者、知的障害者、精神障害者などが対象)などがあります。
これらの助成金は企業からの申請に基づき予算の範囲で支給決定されるものです。
支給要件や支給額、支給期間または支給回数の限度がありますので、
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)と相談することが必要です。
重度障害者等通勤対策助成金の詳細はこちらから
A. 一定期間試行的に雇用する制度(障害者トライアル雇用事業)や、
外部の支援機関のジョブコーチによる支援を受けられる制度(ジョブコーチ支援)があります。
障がい者雇用に取り組み始める際は、知識や経験が少なく、
雇用に踏み切れないこともあるかと思います。
一方、障がい者側も職場や仕事への不安を感じることがあります。
このような状況を解消するために、トライアル雇用が導入されています。
トライアル雇用は、障がい者を短期間雇用し、
事業主と障がい者の双方にとってメリットがある取り組みです。
トライアル雇用の期間は、通常3カ月間ですが、
テレワーク勤務の場合は3カ月以上6カ月以内、精神障がい者の場合は6カ月以上12カ月以内となります。
トライアル雇用契約は、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介により、
事業主と対象障害者との間で締結されます。
トライアル雇用期間中の労働条件は、
労働基準法などの労働関係法令に基づいて定められなければなりません。
A. 安全対策のためにも、採用した障がい者に合わせた設備改善を行うことで、
働きやすい環境を整備することが重要です。
身体障がい者が安全に働きやすいようにするためのバリアフリー化は、
身体障がい者だけではなく他の障がい者、さらには全社員にとっても有効です。
全てを一度に改善するのは難しいかもしれませんが、
本人とのコミュニケーションを大切にし、必要な箇所から改善を進めることが大切です。
設備改善等にかかる助成金の活用(障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金)について、以下でご紹介します。
<障害者作業施設設置等助成金>
スロープの設置、トイレの改造など、障害者の障害特性による課題を克服するための
施設または作業設備の設置・整備を行う費用の一部に対して助成します。
<重度障害者等通勤対策助成金>
住宅の貸借、住宅手当の支払い、駐車場の貸借など、通勤を容易にするための
措置を行う場合に要する費用の一部に対して助成します。
これらの助成金は企業からの申請に基づき予算の範囲で支給決定されるものです。
支給要件や支給額、支給期間または支給回数の限度がありますので、
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)と相談することが必要です。
今回は障がい者を採用し、受け入れる際の準備に必要なことなどを解説しました。
さまざまな支援機関や助成金を活用することで、
障がいの有無に関わらず、互いに働きやすい環境整備を進められる仕組みがあります。
障がい者雇用をお考えの方方へ、ご参考になれば幸いです。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html#1