障がい者の雇用定着のために企業で行われている実際の取組みについて
はじめに
初めて障がい者を雇用したけれど、
定着させるには、どのような取り組みを行えばよいのか分からない、
定着を成功させている企業について知りたい、
という採用担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は障がい者雇用に取り組んでいる東京都の企業の事例をご紹介します。
東京都は、ユニバーサルデザインのまちづくりを推進するほか、
「心のバリアフリー」も重要視しており、
社会や環境において全ての人が平等に参加できるよう取り組んでいます。
また、東京都は企業と連携し、
「心のバリアフリー」に対する社会的気運を高めるため、
意識啓発などの取り組みを行う企業を
「心のバリアフリー」サポート企業として登録し、公表しています。
ここではその中から実際に行われている取り組みについてご紹介いたします。
1.A社さん:障がいを抱える社員自らが講演を行い、社内外での相互理解を深める
障がいを抱える社員自らが講演活動を行っており、全社員が障がいへの理解を深め、
親切な製品・情報 ・サービスを研ぎ澄ませていくことに活かしているそうです。
オストミー ケア事業では、
オストメイト(病気や事故などにより腹部に人工的に造られた排泄口:
人工肛門や人工膀胱であるストーマを持つ人のこと)と共に歩むことを通じて
ストーマに関わる全ての人が自分らしくいられる社会の実現を目指しています。
主な取組み
① 多様な社員の雇用と、障がいへの理解を促進する社内講演の実施
障がい者雇用を通じて、多様性のある組織を目指しています。
勤務体制や通勤方法について、障がいや疾患に伴う本人の希望を確認し、
働きやすい環境を整備しています。
2022年からは10月を「障がいの理解を深める月間」とし、
障がいを抱える社員自らが講演をし、全社員に向けて障がいについての理解を深めています。
② 誰もが自分らしく健やかに生きられる社会を目指した啓発活動
2015年から、所属パラアスリート社員が小中学生に向けて
パラスポーツや自身の障がい、車いすの方への声掛けや介助方法について
出前授業を行っています。
また、オストメイトの社会的認知拡大と理解促進のため、
外部団体が実施するイベントへの協力や防災の日をきっかけとした
災害対策などのニュースリリースを通じて、
誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指しています。
A社さんの行う「心のバリアフリー」実践のための3つのステップ
①障がいの社会モデルの視点でバリアを理解する
社内向けの情報発信や、社内の取組みであるダイバーシティWEEKで
“ダイバーシティ”について考えるイベントを開催するなど、
障がいの有無に関わらず社員全員がいきいきと働ける環境づくりを推進しています。
②コミュニケーションをとる
社内コミュニケーションの促進のために、聴覚障がいの社員が手話講座を開催しています。
入社後の面談では、適切な配慮が行われているか確認しています。
また既存社員にも障がい者職業生活相談員による相談窓口を設置し、相談対応を行っています。
③適切な配慮を行う
例えば、聴覚障がいの社員への情報保障(文字おこしや筆談等)の提供や、
視覚障がいの社員への大型モニターの配付など、
個々の状況に合わせて働きやすい環境の提供やサポートを行っています。
2.B社さん:必要な配慮は人それぞれ。安心して働ける環境を整える
障がいのある社員が約660名在籍しており、
給与体系、評価制度等は健常者と同じ制度を適用し、管理職に抜擢されている人もいるそうです。
障がい者雇用の専門部署もあり、
手話通訳士、精神保健福祉士、社会福祉士等の専門スタッフが常駐し、
安心して働ける職場環境を提供しているとのことです。
主な取り組み
① プロフィットセンター(会社に直接的な利益を生み出す部門)での雇用促進
障がいの有無に関わらず、すべての社員が会社に貢献できることを目指しており、
約80%の障がいのある社員がプロフィットセンターで活躍しています。
Webサイト構築、広告デザイン、データエントリなど、
重要な業務領域で障がいのある社員が活躍し、会社の売上に貢献しています。
② 安心して働ける職場環境づくり
障がいのある社員が安心して長く働ける職場環境を目指した支援に取り組んでいます。
・専門スタッフ:精神保健福祉士3名、社会福祉士3名、手話通訳士1名の社員が常駐しサポート
・勤務形態:在宅勤務、シフト勤務、時短勤務、障がい者アスリート支援制度(遠征時など特別休暇)
・災害対策:避難器具の設置、通勤弱者特別休暇制度(積雪、台風時など特別休暇)など
③ 共生社会実現に向けた取組み(人材育成及び雇用支援)
都内の障がい者就労移行支援事業所の利用者を対象に、
Web・デザイン・バックオフィスなどに関する業務セミナーや研修を実施しています。
また、10年以上前から都内の学校や団体向けに出張授業
(手話・車椅子・視覚体験、セミナー、ワークショップ等)を開催しています。
他にも、多くの自治体、企業等から職場見学や情報交換の依頼があり、
共生社会実現に向けて幅広く連携を図っています。
B社さんの「心のバリアフリー」実践のための3つのステップ
①障害の社会モデルの視点でバリアを理解する
障がいの有無にかかわらず、すべての社員が会社に貢献できることを目指しており、
それを実現するためには、
従業員一人ひとりに「社会モデル*視点のバリア」を理解してもらう必要があり、
社内研修(eラーニング)を実施しています。
*社会モデルとは「障がい者が直面する困り事は社会や環境に起因するもの」という考え方を指します。
その反対の概念が「医学モデル」で、
「障がい者が直面する困り事は個人の心身機能が原因である」と捉える考え方です。
②コミュニケーションをとる
社内の多くの部門で障がい者が働いており、障がい者と共に働くことが当たり前になっています。特別な意識を持たずに自然な形でコミュニケーションを取るよう心がけていますが、障がいのある人から配慮を求められた場合には、最善な支援を検討しています。
③適切な配慮を行う
障がいのある人向けに、障がい者相談窓口、サポートスタッフによる定期面談や情報保障、
障がい支援機器導入、業務マニュアル整備などの配慮を実施しています。
同じ障がいであっても個人差があるため障がい特性に応じた配慮をしています。
おわりに
障がい者の法定雇用率も上がり、
今後障がい者を雇用したいという企業が増えていくと思います。
障がい者と共に働く社会の実現は企業にとってもプラスになるはずです。
障がい者雇用を進める際には、
ぜひこのような企業の取り組みをご参考にされてはいかがでしょうか。
参考資料
令和5年度 東京都「心のバリアフリー」好事例企業
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/machizukuri/kokoro_support.files/r5koujireikigyou.pdf