今回の記事では、肢体不自由、高次脳機能障がいを抱えている人を
雇用する際に配慮すべき事項や障がいの特性について解説します。
肢体不自由とは、病気やケガなどにより
上肢・下肢・体幹の機能の一部または全部に障がいがある状態のことです。
肢体不自由にはさまざまな種類があります。
障がいの部位や障がいの現れ方、障がいの原因、
進行性の病気や変動性の病気が原因となっているか、
発症時期、知覚障がいや痛みなどを伴う障がいの有無、
補装具の有無などにより、特性が異なります。
運動機能障がいには上肢・下肢・体幹の区分けがあり、
欠損による機能喪失と本来の機能の制限喪失(切断など)の場合もあります。
それぞれに必要な配慮や支援の方法があります。
・車いすの使用や自動車通勤、ラッシュを避ける時差出勤などの
職場内の移動や通勤手段が安定的に獲得できるように配慮することが必要です。
・歩行の困難性により、通勤や職場内の移動に時間がかかる場合があります。
休憩できる場所の確保や転倒の不安への対応が必要です。
・仕事においては、職場全体の個々の状況に合わせた環境整備が重要です。
車いすの動線確保、業務スペースの確保、スロープの設置などのバリアフリー対応が必要です。
さらに、トイレの改修や自動車通勤のための駐車場の確保も重要です。
・運動機能に関する障がいは困難さが分かりやすいことから、
その点についての理解は得やすいですが、運動機能以外の困難さは見逃されがちです。
例えば、首から下の発汗機能の障がいにより体温調節が難しく、部屋の温度調整が必要な人もいます。
個々の状況に応じた運動機能以外の困難への細やかな配慮が必要な人もいるため、
周囲の社員にも理解を求めることが重要です。
障害者作業施設設置等助成金
スロープの設置、トイレの改造など、
障害者の障害特性による課題を克服するための施設
または作業設備の設置・整備を行う費用の一部に対して助成します。
重度障害者等通勤対策助成金
住宅の貸借、住宅手当の支払い、駐車場の貸借など、
通勤を容易にするための措置を行う場合に要する費用の一部に対して助成します。
高次脳機能障がいは、脳の一部が損傷されることにより生じる認知機能の障害で、
原因としては脳卒中、脳炎、脳腫瘍などが挙げられます。
症状は回復することもありますが、完治は難しく、
職業生活を再開するには周囲の理解と配慮が必要です。
高次脳機能障がい者には精神障害者保健福祉手帳が交付されますが、
身体障がいがある場合は身体障害者手帳も交付されることがあります。
また、高次脳機能障がいの原因となる病気や事故の発生が18歳未満である時は
療育手帳が交付されることもあります。
脳の損傷部位によって症状や重症度が異なり、複数の症状が重複することもあります。
・記憶障害
日々のできごとや新しい情報、予定などを覚えることが難しくなります。
毎日繰り返し行う作業の手順は少しずつ定着することが期待できますが、
定着まである程度長い目で見ていく必要があります。
・注意障害
物事の細部に注意を払うことや、集中力を長時間維持すること、
複数の対象に同時に注意を向けることが苦手なこととして挙げられます。
そのため作業手順の抜けや見落としが生じやすくなります。
注意力は、周囲の環境(騒音など)や本人の疲労の程度にも影響を受けます。
・半側空間無視
左右どちらかの空間(多くの場合は左)への注意力が弱くなる症状です。
例えば、通路の左側にある物にぶつかる、左側に置いた持ち物を置き忘れる、
書類の左端の欄を見落とすといったことがあります。
見えないわけではなく、左側(または右側)に注意を向けたり維持したりすることが難しいです。
・失語症
言語の障がいは、会話や読み書き、相手の言葉を理解し、
自分の意思を言語で表現することの両方に不自由が生じます。
・遂行機能障害
パターン化された作業はこなせますが、
複雑な職務の計画立てや臨機応変な判断が難しかったりします。
・社会的行動障害
些細なことで怒る、自己中心的な行動をするなど、
本来のその人らしくない様子が見られる場合があります。
これは、障がいの影響と環境の影響(ストレスなど)の両方が関係している
可能性があることが示唆されています。
・記憶障害
「覚えなくても見ればわかる」作業環境を整えることが重要です。
スケジュール表や作業手順書を用意することで、効率的に作業が進められます。
連絡事項はメモにして渡すことで、情報の共有がスムーズになります。
作業環境や手順は、変更が少ない方が望ましいです。
・注意障害
集中しやすい環境を作るためには、静かな場所で作業を行い、
連絡や指示は一つずつ伝えることが重要です。
ミスが起きやすい作業には、チェックリストを使って見直しを行うことも効果的です。
また作業の合間に小休憩を取ることで、
集中力を回復させることができるので、効率的な作業ができるでしょう。
・半側空間無視
注意が向きやすい側(多くの場合は右)を活かします。
例えば、連絡事項を書いたメモは本人から見て右側に置きます。
衝突や転倒などの事故を防ぐため、職場内をよく整理するとよいでしょう。
・失語症
短い文でゆっくり話しかけ、返事を待つことが重要です。
口頭だけでなく、文字や絵、写真を使うことで意思疎通がスムーズになります。
作業手順を伝える際は、実際にやって見せると効果的です。
・遂行機能障害
パターン化できる職務には作業手順書を用意することが重要です。
一方、パターン化できない職務に取り組む際には、
作業前にリストや順序を書き出して整理することが効果的です。
本人に促して内容を確認することで、作業の効率化やミスの軽減につながります。
・社会的行動障害
騒音にイライラする場合は、静かな場所で作業することが大切です。
原因が特定できる場合は環境を調整しましょう。
問題が解決しない場合は、専門機関に相談することがおすすめです。
ここまで障がい別に就業上の配慮や障がいの特性について解説しました。
障がいによって職務能力に関する認識のずれもあります。
負担の少ない仕事から始めて、徐々に職務の幅を広げることで、
お互いの認識を合わせることが重要となります。
コミュニケーションを丁寧に行いながら、互いに理解を深め合っていきたいですね。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html#1