
季節の変わり目になると「体調がすぐれない」「お腹の調子が安定しない」など、様々な体の不調を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に夏から秋への移行期は冷たい飲食や夜更かし、暑さよる食欲不振などが胃腸に負担をかけてしまいます。そして年度末や新生活が始まる、春先の環境変化などによるストレスが多い時期にも、自律神経の乱れから胃腸の不振をはじめとした体調不良を訴える方が多くみられるようです。
今回は季節の変わり目特有の胃腸不振の原因や、トラブルを回避し、健やかな日々を送るためのセルフケアについて解説いたします。
寒暖差
寒暖差が大きくなると、私たちの体はその変化に適応しようとして、自律神経が活発に働きます。しかし、急激な温度変化が続くと自律神経が乱れ、胃腸の働きにも悪影響を及ぼすことがあります。血流は自律神経によって調節されていますが、環境の変化によるストレスから自律神経が乱れて交感神経が優位になると、血管が収縮して血行不良を起こし、それが胃腸の働きを阻害するため、ぜんどう運動にも影響して消化が悪くなってしまいます。また、自律神経の乱れは胃粘液の分泌も減少させてしまうため、胃酸が過剰に分泌し、胃痛や胃もたれなどの様々な胃腸トラブルを引き起こします。
食生活の変化
季節の変化に伴い、食べる物も大きく変わると思います。夏は冷たい飲み物やさっぱりした食べ物が好まれると思いますが、食欲が増す秋になると脂ののった魚や炊き込みご飯、きのこ類など、旬の食材や料理が増えて食欲をそそり、つい食べ過ぎや飲み過ぎを起こしてしまいます。この急激な食生活の変化は、夏の疲れが残る胃腸に負担をかけ、胃もたれや消化不良を引き起こす可能性があります。
また、夏の間に冷たい飲み物やアイス類を多く摂取していた方は胃腸が冷えやすく、秋になっても腸の働きが低下しやすい状態にあります。
自律神経の乱れ
消化管の働きは自律神経と深く関わっており、消化管のぜんどう運動や消化液の分泌は、交感神経と副交感神経によって調節されています。ですが、季節の変わり目は自律神経のバランスが崩れやすく、特に夏から秋にかけて気温が下がり始める頃になると、胃腸の働きや胃液・胃酸の分泌が不安定になります。例えば副交感神経が優位になると下痢を引き起こしてしまうことがあり、副交感神経はリラックス時に腸の動きを活発にしますが、その働きが過剰になると下痢につながるそうです。一方、交感神経が優位になると体は活動モードになりますが、消化機能の働きが抑制され、便秘がちになることがあるとされています。
脱水による腸のバリア機能の低下
腸には腸管上皮(ちょうかんじょうひ)と呼ばれるわずか数十ミクロンの細胞層で構成された非常に薄い壁があり、この層は栄養や水分を吸収する重要な役割を果たしています。さらに腸管上皮を覆う粘液層がバリア機能としての役割も担い、体内に腸内細菌や未消化のたんぱく質などの有害物質が侵入するのを防ぎます。
しかし、体内が脱水状態になるとこの粘液層の外層が薄くなり、バリア機能が低下してしまいます。すると腸内細菌や有害物質が腸の粘膜に侵入しやすくなるため、適切な水分補給を行い脱水を防ぐことが重要になります。季節の変わり目は急激な気温の変化に体が対応しきれず、体温調節機能が低下したり、発汗がスムーズにいかず、脱水が起こりやすくなります。無意識のうちに身体から水分はどんどん失われていくため、季節を問わず、のどの渇きを感じる前にこまめな水分補給をすることが大切です。
食中毒や感染症の疑い
季節の変わり目は感染性の胃腸炎や食中毒が増加する時期です。夏から秋にかけては気温が下がる一方で、残暑の影響でまだ食べ物は傷みやすく、夏の疲れから免疫力が低下している場合も多いため、細菌やウイルスによる胃腸炎が増える傾向にあります。特に秋は行楽や運動会などで外食の機会が増えるため、食中毒のリスクに対する注意が必要です。
そして秋から冬にかけてはノロウイルスなどのウイルスが原因となる食中毒がピークを迎え、集団感染も起こりやすいことから、より一層の注意が必要です。食中毒や感染症が疑わしく、発熱や激しい下痢、血便が見られる場合は、自己判断せずに早めに医療機関を受診してください。
温かい飲み物や食事をとること
冷たい飲み物や食べ物は胃腸の働きを低下させるため、夏場でも味噌汁やスープなどを含む、温かい食事をとるように心がけましょう。特に、胃腸の疲れやお腹の冷えを感じている時の水分補給には、常温の水や白湯がよいでしょう。また、夏だけでなく秋や冬も「かくれ脱水」に注意しましょう。水だけでなく、経口補水液やスポーツドリンクで電解質を補うと、腸の回復を助けることができます。
胃腸に優しい食事を心がけること
近年、食事や生活習慣を改善して腸内環境を整え、心身の健康維持・改善をはかる「腸活」と呼ばれる取り組みが注目されています。腸内環境を整えるためにはまず食生活を見直すことが大切で、善玉菌を多く含むヨーグルトや納豆、味噌などの発酵食品、そして善玉菌のエサとなる食物繊維が豊富な野菜や果物、海藻類を積極的に取り入れることが効果的です。
さらに胃腸が弱っている時には、消化に負担がかからないように食べ物をよく噛んでゆっくり食べることを意識し、揚げ物や辛い食べ物、アルコールなどの刺激の強い食べ物は控えて、胃腸を労わるようにしてあげましょう。
日頃から胃腸に優しい食事や生活習慣を心がけることで腸内環境が整うと、それに伴って免疫力もアップしていくため、様々な体調不良を防ぐことにつながります。季節の変化に負けない丈夫な体づくりのために、まずは食習慣の改善から始めてみましょう。
ストレスを溜め込まないようにすること
「ストレスがかかると胃にくる」という方もいらっしゃると思いますが、ストレスは胃腸にとても大きな影響を与えます。ストレスを感じると交感神経が優位になって胃の働きが抑制されてしまうため、胃酸の過剰分泌や胃粘膜の保護機能の低下が起こり、結果として胃痛や胃炎、吐き気などの症状が現れることがあります。また、ストレスは腸の働きにも影響を及ぼし、下痢や腹痛といった症状、特に過敏性腸症候群※の原因になることもあります。
ストレスを溜めないように心がける、と言ってもなかなか難しいことですよね。急激な気温差のような、季節の変わり目に訪れる環境的要因のストレスについては避けられない部分はありますが、仕事や人間関係の悩みなど、ご自身が負担に感じている様々な外的ストレスからは、できることなら少しでも距離を置きたいものです。
おそらくストレスの根本を「解消」することは難しい場合が多いと思いますが、そのような時はとにかく「気分転換」に努めましょう。ストレス要因に囚われることなく意識を別の事柄に移し、特にご自身が好きなことや興味のあることに没頭できる時間を作るようにすると、緊張状態にある心身を休ませることができるようになります。ストレスはいつの間にか塵のように積もっていくものです。そうならないためにも、ご自身を常日頃から労り、心から楽しめるセルフケアでストレスを遠ざけましょう。
※過敏性腸症候群(IBS)…検査で原因となる疾患が見つからないにもかかわらず、腹痛や下痢・便秘といった胃腸不振が慢性的に続く病気。主な原因はストレスや不安などの心理的要因と自律神経の乱れによるものとされている。
軽い運動やストレッチをすること
胃腸の調子を整えるためには、軽い運動やストレッチが効果的です。血行が促進され、自律神経が整うことで腸の働きが活発になります。ただし、胃腸の調子が悪い時には激しい運動は避け、無理のない範囲で行いましょう。
普段の生活に運動習慣を落とし込むことが難しい方は、なるべく階段を使うようにする、歩くときは歩幅を広げて少し速めに歩く、長時間同じ姿勢で作業をしないなど、こまめに体を動かすように意識するだけでも血行促進効果を高めることができるようになります。
体を冷やさない服装を心がける
胃腸を冷やさないために、温かい飲食物をとるなどの内側からのケアも大切ですが、体の外側から腹巻などで温めて冷やさないようにすることも大切です。季節の変わり目には気温の変化に対応するため、体温調節をしやすいように脱ぎ着しやすい程度に重ね着をするなど工夫して、体を冷やすことなく快適に過ごせるように心がけましょう。特にお腹周りを冷やさないように、温かいインナーの使用や腹巻きの着用がおすすめです。
「いつものことだから…」などと、ちょっとした胃もたれや便秘を軽視すると、症状が悪化する可能性があります。特に、胃痛や便秘、下痢が長引く場合は、消化器系の病気が隠れていることがあるため、早めに医療機関を受診しましょう。
季節の変わり目に起きる胃腸不振は、一時的なものであればご自身のセルフケアによって数日で改善が見込めます。しかし、日頃から胃腸のケアをされていても、近年の激しい気候変動の影響には抗えない時もあります。調子が悪い時は無理をせず、その時のコンディションに合わせて、医療機関で相談することも念頭に置いておくことが大切です。
消化器はストレスや環境の変化に敏感で、季節の変化を特に感じ取りやすく、その影響を受けやすい臓器とされています。そのため、季節の変わり目になると自律神経が影響を受けることで、胃腸のトラブルが起こりやすくなるそうです。寒暖差の大きい時期は胃腸に負担をかけない食事をとり、十分な睡眠時間を確保して、規則正しい生活を送るように心がけましょう。また、体を冷えから守り、日頃からストレスケアを欠かさないようにすることも大切です。
人間の体は気温差や天候、様々な環境要因に適応しようと必死に働いているため、時には大きく消耗し、それが何かしらの体の不調として現れます。ストレスに敏感な方はもちろんのこと、ご自身の心と身体を常日頃から気にかけて労り、季節の変わり目の胃腸トラブルを防ぐようにしましょう。