
仕事や人間関係、自分を取り巻く環境や病気、怪我などの不安や悩み等々、ストレスには様々な要因がありますが、実は乱れた食生活もストレスと深く関係しています。なぜならストレスは脳で感じるため、その脳の機能を支え、働かせているものが普段の食事から得た栄養素だからです。食生活が乱れると栄養が偏り、脳機能の働きを助けるために必要な栄養素も不足してしまうため、脳の栄養不足が気分を落ち込ませたり、ストレスを増幅させてしまいます。
偏った食生活はメンタルにも負担をかける可能性があるため、これまでの食生活を今一度見直してみませんか?今回はメンタルヘルス維持に欠かせない栄養素について解説いたします。
ファストフードやお菓子類は糖質や脂肪が多く、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などの原因になります。これらの生活習慣病はうつ病とも関連があり、肥満の場合、うつ病の発症リスクが高くなるという研究結果が報告されているそうです。一方、極端な糖質制限による糖質不足も、低血糖による倦怠感や抑うつ状態を招く原因となることがありますので、注意しましょう。
また、加工食品はビタミンなどの栄養素を十分に摂取できず、エネルギーは得られても栄養不足になる可能性があります。体内の神経伝達物質はメンタルを調整する役割を果たしており、これらを作るためにはたんぱく質、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などが必要です。栄養不足が続くと、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の不足によって感情や気分を調節する機能が低下し、うつ病のリスクが高まるそうです。
1.ビタミン類
ピーマン、ブロッコリー、芽キャベツ、キウイ、レモン、オレンジ、 いちごなどに含まれているビタミンCは、抗ストレスホルモンであるコルチゾールの材料の一部になります。ビタミンCが不足すると疲労感や倦怠感、気力の低下が生じる可能性があります。
ビタミンDは脳の機能にとって重要な栄養素であり、セロトニンなどの神経伝達物質の分泌を助けるため、不足すると気分の落ち込みやうつ症状につながることもあります。ビタミンDは魚介類、きのこ類、卵に多く含まれていますが、紫外線を浴びることでも生成されるため、食品からの摂取だけでなく、日光も浴びるようにするとよいでしょう。
また、脳はストレスに対処する際にエネルギーを消費します。そのエネルギー源であるブドウ糖を効率的に変換するためには、ビタミンB群のサポートが必要です。ビタミンB1は豚肉、ビタミンB2は卵、ビタミンB6はバナナやナッツに豊富に含まれています。これらのビタミンは協力し合って神経系や脳の機能を向上させるため、単独で摂取するのではなく、複数のビタミンB群を同時にとると効率的です。
2.カルシウム
ストレスがかかると、ビタミンCとカルシウムが消耗されるそうです。よく「イライラするとカルシウム不足だ」なんて話しを耳にしたことがあるかもしれませんが、カルシウム不足とイライラは直接的な関連があるわけではないそうです。しかしカルシウムは脳神経の興奮を抑えたり、精神の安定や骨の健康を維持する効果があります。
3.鉄分や亜鉛などのミネラル
鉄分や亜鉛などのミネラルは、肉や魚介類、豆類、野菜、海藻類などに多く含まれています。鉄分は神経伝達物質の正常な機能に必要な栄養素で、不足するとうつ病のリスクが高まることが明らかになっているそうです。
鉄は酸素を運ぶヘモグロビンの主要成分で、不足すると貧血を引き起こし、脳に十分な酸素が供給されなくなります。さらに鉄不足はブドウ糖をエネルギーに変える力を低下させ、脳機能の低下を招くこともあるそうです。また、亜鉛やマグネシウムの不足もうつ病のリスクと関連していることが研究で示されており、これらの物質が不足すると神経伝達物質であるセロトニンやGABA、ドーパミンの働きに影響して、気分が落ち込んだりストレスへの対処能力が低下してしまうそうです。
鉄分の摂取には、肉や魚の赤身などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」を摂取すると効果的です。ヘム鉄はほうれん草や豆類、海藻類などの植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」と比べて体内への吸収率が非常に高いため、積極的にとりいれることで効率的に鉄分補給をすることができます。
4.必須アミノ酸
必須アミノ酸は神経伝達物質の原料となりますが、体内では合成できないため、食事から摂取する必要があります。例えば必須アミノ酸の一種であるトリプトファンは精神安定に関わるセロトニンや、睡眠を促すメラトニンの原料となるため、ストレス軽減や良質な睡眠のために非常に有効な成分です。トリプトファンは大豆製品、乳製品、肉、魚、卵、ナッツ類、バナナ、穀類などに含まれています。
5.GABA
GABA(Gamma-Amino Butyric Acid)は「γ-アミノ酪酸」の略称で、脳や脊髄に存在するアミノ酸の一種です。神経伝達物質として脳の興奮を抑える役割を果たし、ストレス軽減、血圧低下、睡眠の質の向上に効果があるとされています。GABAはトマト、ジャガイモ、カボチャ、なす、メロンなどの食品に多く含まれており、GABAを含有したトマトジュースやチョコレート、コーヒーも数多く市販されています。
6.DHAとEPA
DHA(DocosaHexaenoic Acid=ドコサヘキサエン酸)とEPA(EicosaPentaenoic Acid=エイコサペンタエン酸)は健康維持に不可欠な必須脂肪酸の一種であるオメガ3脂肪酸の略称で、魚の油に豊富に含まれています。うつ病や不安障がいなどの精神疾患の症状を軽減する効果や、心血管の健康、脳機能の向上、炎症の軽減、関節の健康、視力のサポートなど、さまざまな健康効果が期待されています。オメガ3脂肪酸は体内で合成できないため、食事からの摂取が必要です。魚介類ではイワシやサバなどの脂の乗った青魚、その他に亜麻仁油、えごま油、キャノーラ油、ナッツ類などに含まれています。
7.たんぱく質
セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどのストレスに対抗するホルモンや神経伝達物質はたんぱく質から生成されるため、偏った食事を続けるとたんぱく質が不足して、神経伝達物質の材料不足から集中力や気力の低下を引き起してしまいます。たんぱく質を多く含む食品は肉類、魚介類、卵、大豆製品、 乳製品などです。
8.食物繊維
食物繊維の摂取量が多い人は、うつ状態になりにくいことが複数の研究データから明らかになっているそうです。また、セロトニンなどの神経伝達物質は脳だけでなく腸でも生成されるため、腸の健康維持が非常に重要です。食物繊維を多く含む食べ物は玄米、麦、ごぼう、バナナ、納豆、大豆、ひじき、わかめ、きのこ類などです。
注意
薬を服用中の方はサプリメントを服用すると薬の作用に影響したり、副作用が強く出ることなどがありますので、必ず医師に相談し、摂取してもよいか確認してください。
人間の体は日々食べるものからつくられていますが、摂取したものによって体だけではなく、心も大きく影響を受けることがあります。そして私たちの生活の中には様々なストレスの要因があり、ストレスを溜め込みすぎると不眠になったり、精神的な病気になってしまうかもしれません。
ストレスを軽減するためにはバランスのよい食事が大切です。ですが、ただ栄養素だけを意識するのではなく、毎日の食事に美味しさや楽しみを感じ、満足感を得ることが食生活の改善と「心の栄養」につながっていきます。心身の健康維持のために、必要な栄養素をなるべく食事からとるように、そして楽しむことを忘れずに、健康的な食習慣を意識していきましょう。