
日常生活でのさまざまなストレスから不安やイライラを感じたり、体調が悪くて休みたいのに、何故か罪悪感を感じて休めないようなことはありませんか?何かに失敗してしまった時、自己嫌悪に陥って、必要以上に自分を責めて否定してしまったり…
こうした感情に対して「もっと頑張らなきゃ」「自分はダメだ」と自分を責めると、気持ちがさらに落ち込んでしまいますよね😔。
そこで重要なのが「セルフコンパッション」という考え方です。この考え方を実践することで自分を責めることを防いだり、ストレスを軽減するなど、精神的な健康を保つことができます。
今回はセルフコンパッションの考え方やその効果についてご説明いたします。
セルフコンパッション(Self-Compassion)とは「自分自身への慈しみ・思いやり」を意味し、自分に対して優しさや思いやりを持ち、あるがままの自分の人間性を認めて、受け入れることができる心理状態やそういった考え方、思考を育む技法や力の事を指しています。(Compassion=哀れみ、思いやり、深い同情、など)
失敗やストレスを感じた時に、まず自分を責めたり批判するのではなく、自分自身を親しい友人だと思って寄り添い、慈しみ、思いやってあげる、ということです。
セルフコンパッションは、主に3つの要素で構成されています。

セルフコンパッションは甘えではありません。
「自分を労わる」と言われても「それは甘えでは?」と感じるかもしれませんが、自分に対して厳しくなりすぎると、不安感や自己否定感を強める要因となります。自分に厳しすぎる人こそ、セルフコンパッションを実践することで自分自身や周囲の人々に良い影響を与えることができます。
日本では自己評価が低い方が多く、セルフコンパッションを身につけるのがよいと考えられています。自己評価が低いままでいると、自分を責めるあまりにつらい気持ちになり、ストレスが蓄積して精神面に悪影響を及ぼすことがあります。
自己批判が強い人
失敗や間違いに対して過度に自分を責めたりする人は、結果的にネガティブな感情をさらに強めてしまいます。セルフコンパッションを通じて失敗を成長の機会と捉える視点を養うことができます。
完璧主義の人
常に完璧を求めるあまりに少しのミスも許せない人は、セルフコンパッションを通じて、自身の弱さや不完全さを受け入れ、自分を許すことができるようになります。
ストレスが多い人
ストレスや不安を感じやすい人は、セルフコンパッションの実践によって不安を和らげ、心の安定を保つことができるようになります。
他人に優しく、自分に厳しい人
セルフコンパッションを実践することで、周囲に向けたその優しさを、自分にも向けることができるようになります。
セルフコンパッションが高い傾向にあると、良くない出来事が起こった際に自分を過度に責めることが少なくなります。すると自分が不幸だと感じにくくなり、逆に「自分は恵まれている」「楽しい」といったポジティブな感情を持ちながら日々を過ごすことができるようになります。
ポジティブ思考
悲観的になりすぎず、前向きな姿勢を保ちやすい傾向にあります。
人生の満足度が高い
日々の生活や人生そのものに対して、より大きな満足感を感じやすいです。
感謝の気持ちが多い
さまざまなことに対して感謝の気持ちを抱きやすいです。
失敗を恐れない
失敗を学びの機会と捉え、新しいことに積極的に挑戦します。
自分を責めすぎない
失敗やミスがあっても、過度に自分を批判せず、自分を労わることができます。
他者への思いやりがある
自分に優しくできる分、他人のミスや欠点にも寛容で、共感的に接することができます。
特に下記のような効果があります。
・幸福感が高まる
・ストレスが減る
・ポジティブな感情を持てる
セルフコンパッションを実践すると不安や抑うつ感、ストレスを軽減する効果があるとされています。
セルフコンパッションが高い人は心の安定を保ちやすく、心身に負担がかかる困難の多い状況でも適切に対処できるため、ストレスによる身体的な症状(頭痛、身体のだるさ、めまいなど)を抑え、心身の健康状態を維持しやすくなります。
また、自分自身が幸せでポジティブな状態でいると、人間関係や仕事の効率にもプラスの影響をもたらすことが期待できます。
その他にも下記のような効果があります。
「先延ばし行動」を減らせる
セルフコンパッションを高めることで「自分ならできる」「今ここで頑張ることに意味がある」といった前向きな思考が生まれ、自然と行動への意欲が湧きます。
目標を達成しやすくなる
セルフコンパッションが高い人は自己認知能力が優れていることが特徴です。目標に向かって無理のないペースで進むことができ、結果として目標の達成率が高くなる傾向があります。
心の回復力(レジリエンス)を高められる
セルフコンパッションを実践することで自分を責めずに「心の柔軟性」を育むことができ、感情の切り替えがスムーズになります。困難な状況に直面した際や精神的なダメージを受けた時でも、気持ちを立て直しやすくなります。
※レジリエンス(resilience)とは?
レジリエンスとは「回復力」「復元力」「耐久力」「再起力」などを意味する心理学やビジネス分野でよく使われる言葉で、困難な状況やストレスに直面した際に、それを乗り越えて回復する精神的な力や強さ、復旧能力のことを指し、危機的状況をただ耐えて乗り越えるだけではなく、そこから学びを得て柔軟に対処し、より強く立ち直ることを意味します。
まず第一に、自分を責めてしまうような思考パターンに気づくことが重要です。そしてセルフコンパッションは一度学んだら終わりではなく、日常生活の中で意識的に育んでいく必要があります。
休息をしっかり確保すること
「休むことが下手、苦手」と感じる方も多い世の中ですが、疲れを溜め込まないためには意識的にリラックスをする時間を持つことが大切です。休日や就寝前にリラックスできる時間を設けることで、心身の健康を保つことができます。
また、体調が悪いにもかかわらず、罪悪感や周囲への迷惑、仕事の遅れへの不安から休むことをためらう方も多いと思います。しかし、体調不良や精神的疲労を抱えたままでは仕事のパフォーマンスが低下するだけでなく、さらに心身の健康状態が悪化するという悪循環に陥ることもあります。それが分かっていても、休むことに苦手意識がある方にとっては、休みを周囲や会社に伝えることに自体に、非常に大きな心理的ストレスがかかるものです。そのため、「休む」ということがとても勇気が必要な行為になってしまい、尻込みをしているうちに我慢の連続で心身ともに疲弊してしまうのです。
「休みたい」と思うことは決して「怠けている」ということではありません。心と身体が求めている「労りのサイン」なのです。この大切なサインを無視してはいけません。休まずにいたら、心も身体も擦り切れてしまいます。必要な時には勇気を持って!心身の健康を守るために、しっかりと休みをとりましょう。
他人と自分を比較しないで!
自分自身と周囲との比較は、自己否定感や劣等感を増す原因となることがあります。
他人と自分を比べることが無意味だと理解していても、つい自分を厳しく評価してしまうこともありますよね。そのような時には、自分に優しい言葉をかけてあげることが大切です。他人との比較や知らない誰かの評価に苦しむことなく、「自分らしさ」とご自身の価値観を一番に、自分軸でブレずに生きていきましょう。
慈悲の瞑想を行う
心身のトレーニング方法である瞑想は、心を落ち着かせて集中力を高め、ストレスや不安を軽減するなどの様々な効果がありますが、「慈悲の瞑想」は自分自身や他者の幸せを願う言葉を思い浮かべることで、思いやりの気持ちを育むための瞑想です。慈悲の瞑想を行うことで心の安定を図り、幸福感の向上や人間関係の改善などの効果が期待できます。
自分の体に優しく触れてみよう(スージングタッチ)
スージングタッチは、心が不安定なときに自分の体に優しく触れることで心を落ち着かせるセルフケアであり、セルフコンパッションを高める方法の一つです。スージング(Soothing)は「落ち着かせる、なだめる」という意味を持っており、ストレスを感じた際に自分を優しく包み込むと、安心感を得る効果があります。
まず腕、胸、お腹など、自分が触るとリラックスできる体の部位に手を当てます。手の温かさを感じ、深呼吸しながら優しく撫でたり軽く押さえたりすることでリラックス効果を高めます。また、「大丈夫だよ」「よく頑張ってるね」といった自分を励ます言葉を心の中で唱えます。
つらい気持ちや自己批判を感じた時には「自分で自分を抱きしめてあげる(セルフハグ)」ことが効果的です。セルフハグを行うと「幸せホルモン」とも言われるオキシトシンが分泌され、癒やしや安らぎを得ることができます。
自分を支えるリマインドペーパー
リマインドペーパーは、困難な状況に直面した際にセルフコンパッションを思い出し、自分を励ますための手法です(Remind=思い出させる、再確認する)。付箋やメモ用紙に自分を励ます言葉を書き留めます。つらい時や何か行動する時に、心を落ち着ける言葉を選びましょう。紙に書くことで目に留まりやすくなりますが、スマホのメモ機能を活用するのもよいでしょう。
例.
「自分に優しくする」
「ありのままでいい」
「少し休みなさいって
ことかもしれないね」
コンフォートカードを持ち歩こう
コンフォートカード(Comfort Card)とは、お気に入りのフレーズが書かれたカードやメモのことで、気持ちが沈んだときやつらい状況に陥った時の自分を支えるメッセージになります。(Comfort=慰め、安心、心地良さ、快適さ、など)
例えば「自分に優しい言葉をかけよう」「完璧じゃなくてもいいんだよ」といったメッセージを持ち歩くことで、仕事中や外出先でつらいことがあった時や自分を責めてしまった時に、自分を思いやる優しい言葉を思い出すことができます。
ネガティブな思考に陥りやすい方には、財布やスマホカバーなど、すぐに取り出せる場所にコンフォートカードを入れておくことがおすすめです。
自分に手紙を書いてみよう(ロールレタリング)
ロールレタリング(Role Lettering)は「役割交換書簡法」とも呼ばれ、心理療法や学校教育、少年院での矯正教育など、様々な場所で活用される心理技法です。利用者が自分と相手の2つの役割を演じ、それぞれの立場や視点から手紙を書き合うことで自己理解を深めたり、心のモヤモヤを解消して問題解決を促す、といった効果が期待できます(Role=役割、Lettering=文字を書くこと)。
セルフコンパッションを高めるためのロールレタリングの場合は、「優しくて思いやりのある人物」を想像し、その人物になりきって自分自身に手紙を書く方法です。人物像は家族や架空のキャラクター、作品の登場人物でも構いません。手紙を書くことで、普段の自分には言ってあげられないような自分が本当に欲しい言葉を、「温厚で優しすぎる誰か」を演じながら手紙を通して自分自身に投げかけます。手紙を書き終えた後は、想像で描いた優しい人物のイメージを消して、本来の自分自身に戻ります。
そして大切な人から手紙を受け取った時のようなイメージで自分でその手紙を読むと、心が温かくなる感覚を得ることができます。また、自分への手紙を書くことで自分の欠点や失敗に対して客観的に向き合うことができ、気持ちに整理がついて自分に対する理解がより深まることで、これまでのことを深刻に思い悩む必要がない、と感じるようになります。
厳しい自己批判は一時的にはモチベーションを高めて自己成長を促すこともありますが、過度になるとストレスや不安を増幅させ、自己肯定感を低下させてしまいます。
ですが、日常生活にセルフコンパッションを意識的に取り入れるようにすると、自分を優しく受け入れる姿勢を育むことができ、不安やイライラを軽減する効果が期待できます。
毎日の小さな出来事からでも、気づかないうちにストレスが蓄積されることがあります。日ごろから頑張っている自分に優しい言葉をかけ、傷ついた心を癒してあげてください。
そして自分の傷ついた心や弱さと向き合うことは、人によってはかなりのエネルギーが必要な場合があります。つらいときは無理に意識せず、どうかゆっくり休んでください。それも自分に対する「思いやり」です。
焦ることなく、自分のペースで自分自身を思いやる慈悲の心を育み、心穏やかな毎日を過ごせるように、少しずつ意識していきましょう😊